洒落怖動画

馬鹿は風邪ひかない。のに相棒が風邪をひいた

相棒というのは俺のオカルト道の相棒のこと。

制服が衣替えしたばっかの季節で、少し肌寒い日だった。

正直、学校が終わったらすぐにでも帰宅して部屋でゴロゴロしていたい心境だったけど、俺は電話にて

「ごはんも食べてなくて辛い。お見舞いにヨーグルト買ってきて」と、相棒に呼び出されてしまった。

「何で俺が」と、俺はそれを無視して帰宅しようと思ってたけど、一人暮らしのあいつには

看病をしてくれるやつがいないんだよなぁ、と思いなおす。

しばらく考えたが、優しい俺は仕方なく家に寄ってやることにした。


相棒の家のマンションは、オートロック式で入口の自動ドアに鍵を差し込む形になっている。

出会い当初、鍵が無いと家に来るのも不便だろ!

と相棒は俺にマンションの合鍵を作ってくれた。

別に鍵を持っていなくても、電話で部屋の住人に「開けて」と頼む方法や、

マンションの一階にいる管理人さんの信用を買って開けてもらうという方法があるので、

合鍵なんて別に要らないと思っていたけど、あればあるで本当に便利だ。

俺は10階建てマンションの4階にある相棒の家につくと、インターホンも押さず合鍵で中に入る。

中に入ると「辛い」と言って俺にヨーグルトまで買わせたくせに、思いのほかピンピンした相棒がリビングのソファで何かを見ていた。

「よお、遅かったな」

「なんだよ。お前元気じゃんか。来て損した」

俺は一気に疲れて買ってきたヨーグルトを冷蔵庫にしまった。

相棒はさっきから、何やら手帳のようなものを読んでいる。その目の前のテーブルには、食べかけのポテトチップスがあった。

「お前なんなの。ごはん食ってないんじゃなかったっけ?」

「ごはんはね。それより隊長。これちょっと見ろよ」

屁理屈ヤローめ。俺はちょっとイラっとしたけど、相棒が意味ありげな顔で手に持っていた手帳を俺に渡してきたので、とりあえずそれを読んでみた。

「なんだこれ、日記帳?でもないな。どっちかっていうとスケジュール帳か?」

「それ、十年分のスケジュール帳なんだ。俺のおばあちゃんの」

「なんでそんなものお前が持ってるんだよ。てゆうか、これが何」

「おばあちゃんの遺品なんだよ。仏壇にあった。

その一番最初のページ、年間タイトルってとこ見てみろ。」

相棒が指すページは、平成10年から20年までの10個の数字と、白い枠があるだけのページだった。

どうやら、10年間の1年1年にそれぞれタイトルや目標をつけよう!というページらしかった。

だけど、相棒のおばあちゃんはそこに、年間のタイトル、目標ではなく…

「年齢?」

「そう、その年のおばあちゃんの年齢」

そこには、平成10年[74歳]平成11年[75歳]というように、おばあちゃんの年齢が書かれていたのだ。

だけど、その年齢も平成14年で一度途絶え、平成15年から[1年][2年]と今度は年がプラスカウントされていくようになっていた。

「どーういう意味だ?」

俺はさっぱりちんぷんかんぷんだけど、相棒は「わかれよ~」と苛立ってるようだった。


「俺のおばあちゃん、平成14年に亡くなったんだ。享年78歳で。その年に丁度空白になってるだろ。

で、その次からの1年、2年ってのは回忌のことなんだよ」

「あ~、なるほど。そういうことか」

「それだけか?」

「何が、」

「気付かねーの?これ、書いたのはおばあちゃん自身なんだぜ?」

その言葉に、俺はちょっとゾクリとする。

そうか、これは、本人が書いたとなるとかなり妙な話だ。

「お前のおばあちゃん、自分の余命知ってたのか」

「そこに俺も驚いてるんだよ。おばあちゃんはこの年間タイトル欄を、買った年…平成9年に一気に

書いてるから、死ぬ5年近く前に自分の死ぬ年を知っていたってことになるんだ」

「何で平成9年に書いたって、わかるんだよ」

「このメモを書くのに使ってるペン、これ実は姉ちゃんのペンなんだ。紫のラメ入りペン」

相棒に言われてよく見てみると、それは確かにヤングな感じのキラキラした色のインクだった。

「俺、今でも覚えてるんだけどさ。昔、おばあちゃんに手帳書くからインクペンを貸してって言われたんだ。

でも俺まだ鉛筆しか持ってない年齢だったから、代わりにお姉ちゃんのペンを借りてきて渡したんだ。

それがこの紫色のラメペン。

おばあちゃんは可愛いペンだねって言いながら自分の部屋に持っていって、で、その日のうちに、これありがとうね。

ってこのペンを返された。俺はめんどいから姉ちゃんに返さないで自分の机に転がしといたけど。

それが、今思えば平成9 年だ。小学1年生だから、鉛筆しか持ってない。」

「つまり、このペンはずっとお前が持っていたから、違う年に同じペンで書くことは不可能ってことか」

「そういうことだ」

俺はまたゾクゾクした。5年も前に自分の死ぬ年齢をわかって、それをスケジュール帳に残すなんて、これはなんかの能力としか思えない。

「これ見つけたとき、俺おばあちゃんのことすげーって思ったんだ。

自分の死ぬ年がわかるなんてすげーじゃん。けどさ、これは自分の死を予知したんじゃなくて、

もしかしてこのスケジュール帳にネガティブな書き込みをしたせいで、言霊ってやつがおばあちゃんの生命力を奪ったんじゃねーかな…とも思っちゃってさ」

相棒はスケジュール帳をペラペラとめくりながら言う。俺はちょっとしんみりとしてしまった。

何故、相棒のおばあちゃんが自分の寿命を当て、それを書き残したのかはわからない。

だけど、もしも相棒の言うとおりこのスケジュール帳にこんなことを書いたせいで、

おばあちゃんの寿命等が記した通りの運命に変わってしまったとしたら…。

「ま、結局どっちかなんてわかんねーけど。どっちにしろ、オカルトだ」

変な空気での沈黙状態の中、相棒が言った。

確かに、相棒のおばあちゃんがすごいのか言霊なる力が働いたのか、どっちかはわからない。

だけど、どっちにしたってこれは不思議なことだと思う。

「そうだな!」

それから俺達は、買ってきたヨーグルトを食べた。

相棒は絶対仮病だと思ったのに、その日の夜高熱を出した。

すぐに帰るつもりでいた俺は、結局泊りで相棒の看病をするはめになる。

予断だが熱にうなされながら、「俺は治る、俺は治る。熱なんてない」とぶつぶつ呟く相棒の姿はかなり気持ち悪かった。

あとで聞くと、言霊の力を借りようとしたらしい。

そのおかげか知らないが、相棒の風邪はその日で完治していた。

「やっぱ言霊ってあるよな!」

「知らねーよ」

元気になった相棒は得意になって言う。俺はそっけなくしたけど、確実に言霊の存在を信じていた。

以前、超当たるという有名な占い使にが言っていたことを思い出した。

『どんなにすごい占い師も、その力で自分を占うことはしない。

世の中は、知りたくない未来のほうが、ずっとずっと多いからね』